はじめに
大規模イベントの会場では、来場者向けの安定したWi-Fi環境が「あって当たり前」のインフラになりつつあります。一方で、数千人が一斉に同じ空間でスマートフォンを使う環境は、オフィスや商業施設とはまったく異なる過酷な無線環境です。電波は干渉し合い、回線には瞬間的に膨大なトラフィックが集中します。
今回IIJエンジニアリングは、株式会社TBS様からの依頼で東京国際フォーラム ホールA(収容約5,000席規)で開催された大規模イベントにおいて、来場者向けのイベント用Wi-Fiの設計・構築・現地運用を担当しました。会場の1階席はほぼ満員。限られた設営時間のなかで、満席の会場でネットワークをどう実現したのか。本記事では、実際に採用した技術構成と現場で直面した課題を中心にご紹介します。
※本イベントは主催者様のご意向によりイベント名を非公開とさせていただいております。
案件概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会場 | 東京国際フォーラム ホールA |
| 規模 | 収容約5,000席規模/当日1階席は、ほぼ満員 |
| 提供内容 | 来場者向けイベント用Wi-Fiの設計・構築・現地運用 |
| 無線アクセスポイント | Juniper Mist AP 22台 |
| インターネット回線 | フレッツ光 4回線/ルータ4台 |
| 作業スケジュール | 前日設営・当日撤去 |
技術構成
クラウド管理型「Juniper Mist」によるAP 20台構成
来場者向けWi-Fiには、Juniper Mist(以下、Mist)のアクセスポイントを20台導入しました。ホールAのような天井が高く広大な空間では、単純にAPを増やせばつながるというものではありません。むしろAP同士の電波干渉(チャネル干渉)が増え、かえって速度が低下する「過密環境」に陥りがちです。
Mistを採用した最大の理由は、クラウドベースの一元管理とAIによる無線環境の可視化・自動最適化にあります。20台ものAPを短時間で設定・展開し、設営後も電波出力やチャネル割り当てを状況に応じて調整できる機能は、設営から撤去まで時間の限られたイベント用途では非常に有効です。また、イベント開始後の稼働状況をダッシュボードでリアルタイムに把握できることは、現地運用の安心感にも直結しました。
APを設置することができる場所は、イベントの制限があるため自由度は高くありませんでしたが、着席後にSSIDを設定していただくなどの工夫により、特定のAPにクライアントが偏らないよう配慮しました。

簡易構成図
フレッツ光4回線・ルータ4台によるアップリンクの確保
数千人が同時に接続する環境では、無線区間だけでなく、インターネットへ抜けるアップリンク(上り回線)がボトルネックになります。そこで本案件では、フレッツ光を4回線敷設し、それぞれにルータを1台ずつ、計4台を配置する構成としました。フレッツの種別も分け、ISPとの接続方式もPPPoEだけでなくIPoE方式も用いることでリスク分散をしました。(IIJ FiberAccessサービスを活用)
LANケーブルの「長さ」と「物量」
今回の案件で最大の課題となったのは、技術的な無線設計そのものよりもむしろ、敷設するLANケーブルの長さと物量でした。
東京国際フォーラム ホールAは天井高・床面積ともに国内最大級です。回線を引き込むポイントから、ホール内に分散配置した20台のAPやルータまでをすべて有線でつなぐには、1本あたり非常に長いケーブルが必要になります。それが20台分以上ともなれば、総延長は膨大なものとなり、ケーブルそのものの重量・かさ・取り回しが現場作業の大きな負担となりました。
さらに、通路などお客様の動線をまたぐケーブルは、安全面でも見栄えの面でも問題があります。長尺のケーブルを適切なルートで引き回し、養生(保護・固定)を施しながら、つまずきや断線のリスクを抑えて敷設するという一連の作業を、前日の設営という限られた時間のなかで完了させる必要があるため、大量のケーブルマットも持参しました。こうした「物理層」の作業は、イベント当日の安定稼働を左右する極めて重要な工程です。

三脚を利用し、客席にAPを設置
前日設営、当日撤去
本案件は、前日に設営、イベント終了後の当日撤去という短期集中のスケジュールで実施しました。イベント会場は使用できる時間が厳密に決まっており、設営・撤去にかけられる時間はごく限られています。
前述の長尺ケーブル敷設を含むすべての構築作業を前日のうちに完了させ、当日は安定運用に専念。イベント終了後は速やかに機材を撤去し、原状回復まで行いました。こうしたタイトなスケジュールを確実に遂行できるのは、設計から現地作業までを一貫して担える体制があってこそです。
まとめ
IIJエンジニアリングは、無線設計やネットワーク構成といった技術面はもちろん、ケーブル敷設や養生といった現場作業、さらにはタイトなスケジュールでの設営・運用・撤去までを一貫してご支援できます。展示会・セミナー・式典・スポーツイベントなど、規模や会場を問わず「確実につながる」イベントネットワークが必要な際は、ぜひお気軽にご相談ください。