水戸ホーリーホック様のネットワークをサポート

2026年2月〜6月にかけて開催された明治安田 J.LEAGUE 百年構想リーグにて、水戸ホーリーホック様のホームゲーム全試合において、弊社のStarlink Businessを活用したイベントWi-Fiの設計・構築・運用支援を実施しました。

観客動員数の増加に伴い、スタジアム内の通信環境への期待も大きく変わってきています。観客がスマートフォンで快適に通信できることはもちろん、運営側の業務システム ( チケット読み取りやキャッシュレス決済、SNS発信 ) もネットワーク前提で組み立てられる時代になりました。

観客が一斉に集まる試合日は、携帯キャリアの基地局がどうしても輻輳しがちです。「観客が増えるほど、通信に影響が出る」というジレンマをどう解消するか。本記事では、水戸ホーリーホック様の本拠地であるケーズデンキスタジアム水戸において、IIJエンジニアリングが取り組んだイベントWi-Fの提供事例をご紹介します。

ケーズデンキスタジアム水戸の通信課題

ケーズデンキスタジアム水戸(正式名称:水戸市立競技場)は、収容人数10,000人を超えるスタジアムです。水戸ホーリーホック様は、Jリーグ百年構想リーグに加盟するクラブとして、地域に根差したクラブ運営を長年続けてこられました。2025年にはクラブ史上初となるJ1昇格も果たし、ファン・サポーターからの熱量はさらに高まっています。

開場前のスタジアム周辺の様子

そんな中、運営側が直面していたのが「スタジアム内の通信品質」の問題でした。キックオフ前後、ハーフタイム、試合終了直後など、来場者の通信ニーズがピークを迎える時間帯になると、スタジアム周辺の携帯キャリア網の通信速度が低下します。SNSへの投稿が遅れる、ハイライト動画が再生できないといった来場者目線の不便さに加え、運営側にも次のような影響が生じていました。

  • チケット読み込み端末で入場QRコードを読み込めず、来場者が滞留してしまう
  • 物販ブースやキッチンカーで使うキャッシュレス決済端末の応答が遅延する
  • 決済用のQRコードを表示するのに時間がかかってしまう
  • SNSを利用したコミュニケーション(投稿・共有・実況)が困難になる

スタジアム周辺にはキャリア各社の基地局は存在しているはずなのですが、試合日の1万人規模の同時接続には十分対応しきれていないのが実情でした。

水戸ホーリーホック様からご相談いただいたことを契機に、「ホームゲーム全試合で、輻輳に強いイベントWi-Fiを来場者・運営の双方に提供する」というプロジェクトがスタートしました。

導入のポイント — 3つの工夫

本プロジェクトのキーテクノロジーは、衛星通信サービス「Starlink」です。低軌道衛星を使うStarlinkは、地上の携帯キャリア網の混雑とは無関係に通信できることが最大の強みで、まさにイベント会場のような「人は多いが、ブロードバンド回線が敷設できない場所」に適したソリューションです。

そのStarlinkを核に、私たちは3つの工夫を組み合わせてスタジアム全体をカバーしました。

ポイント1: Starlinkを多数用いて分散設置

ケーズデンキスタジアム水戸とその周辺エリアを、5基のStarlinkアンテナで分散カバーする構成としました。Starlinkは1基あたりの通信容量に限りがあるのと、使いたい場所まで延長していくコストを削減するため、1か所に集中させるのではなく、複数の場所に分けて配置しました。

メインゲート付近に2基、バックゲート・アウェイゲート・サブグラウンドにそれぞれ1基ずつ、合計5基のアンテナを設置し、必要に応じてルータやWi-Fiアクセスポイントを外付けしました。

ポイント2:メッシュWi-Fiでキャッシュレス端末エリア全体をカバー

サブグラウンドエリアは、試合日にはキッチンカーがずらりと並ぶ飲食スペースとして使われる、いわば「もう一つの主戦場」です。サッカーコート半面ぐらいと広大なエリアをカバーするには、屋外のため一般的なWi-Fiアクセスポイント(以下、AP)を1〜2台置いただけでは役不足でした。

そこで、複数台のPicoCELA社のAPによるメッシュWi-Fiで配信する形を採用しました。メッシュWi-Fiとは、複数のアクセスポイント同士が無線で連携し、SSIDやIPアドレス体系を維持したまま広いエリアをシームレスにカバーする仕組みです。キャッシュレス決済端末や運営スタッフ用端末を優先的にこのメッシュWi-Fiに収容し、来場者向けのフリーWi-Fiとは分離しました。業務トラフィックと一般トラフィックを混在させないことで、決済端末が応答しないといったトラブルを未然に防ぐ設計です。

キッチンカーの間に高所設置されたメッシュWi-Fi AP
キッチンカーの間に高所設置されたメッシュWi-Fi AP

ポイント3:局所的な需要はStarlink Miniで局所カバー

メインゲート以外にも、運用上重要な入場ゲートが複数あります。バックゲートやアウェイゲートも、入場時間帯にはチケット読み取りが集中しますし、小規模ながら売店もあるためキャッシュレス端末も必要となるエリアです。必要となるエリアが小さいためコストを抑えるため、私たちはStarlinkの可搬モデルである「Starlink Mini」を活用しました。

Starlink Miniは、A4サイズ程度のコンパクトな本体に、Wi-Fiルータ機能まで内蔵した一体型モデルです。電源と空が見える場所さえあれば、単体で半径15m程度のWi-Fi接続を提供できるため、バックゲートやアウェイゲートのような局所的なニーズには最適でした。

ゲート付近に設置したStarlink Mini。
電源と空が見える場所さえあれば、単体で「上流回線+Wi-Fi」を提供できる手軽さが魅力です。

試合数を重ねるごとに進化した運用ノウハウ

ハードウェア構成を決めて設置しただけではイベントWi-Fiは完結しません。むしろ本当の勝負は、毎試合のオペレーションをいかに効率化し、安定させていくかにあります。シーズンが進むにつれて、私たちの運用方法もどんどん進化していきました。

カゴ台車の導入で、設営・撤去時間を大幅に短縮

プロジェクト初期段階では、機材一式は段ボールや個別のキャリーケースに分けて運搬していました。当然、設営のたびに車両との往復が何度も発生し、作業が押してしまうこともありました。

そこで、シーズン途中から物流現場でおなじみの「カゴ台車」を導入しました。Starlinkアンテナ、Wi-Fiルータ、LANケーブル類、電源ユニットを予め「セット」としてカゴ台車に設置しておき、そのまま設置場所まで一気に移動できるようにしたのです。

この見直しにより、設営・撤去にかかる時間は試合ごとに着実に短縮されていきました。初回試合と比較するとオペレーション全体の所要時間はおおむね半減し、スタッフの体力的な負担も軽減。トラブルが発生した場合でも、余裕を持って対応できるようになりました。「現場の段取り」をシステム設計と同じくらい大切にする — これは私たちが今回のプロジェクトで再認識した教訓のひとつです。

ポータブルバッテリーで、設置場所の自由度が一気に向上

イベント現場の宿命として、「電源コンセントが、欲しい場所に必ずあるとは限らない」という問題があります。スタジアムも例外ではなく、特にサブグラウンドや屋外ゲートでは、商用電源の引き回しに時間と養生コストがかかります。

そこで活用したのが、大容量ポータブルバッテリーです。Starlink本体は省電力設計になっているため、最近のポータブルバッテリーで500W程度の出力があれば、ハーフタイムをまたぐ数時間の試合運営は十分にまかなえます。

防水ボックスに収納したJackeryのポータブルバッテリー。
屋外でも雨や砂塵を気にせず運用できます。

ポータブルバッテリー導入により、私たちは「電源コンセントの位置」ではなく「最も電波の取りやすい場所」「最もユーザーに近い場所」を起点に設置位置を決められるようになりました。試合ごとの動線や天候、観客分布に応じて、毎回ベストな配置に微調整しながら運用する — そんな柔軟な現場運用が可能になったのは、ポータブルバッテリー導入の大きな成果です。

まとめ — スタジアムから、あらゆるイベント現場へ

イベントWi-Fiは、「設置して終わり」のサービスではありません。試合ごと、イベントごとに観察し、調整し、改善し続けることで初めて「当たり前に使える通信」へと近づいていきます。私たちは、その地味な積み重ねこそが現場運用の本質だと考えています。

ホームゲーム全試合という規模で、Starlinkを基盤にしたイベントWi-Fiを継続的に提供する取り組みは、IIJエンジニアリングにとっても貴重な経験となりました。今回のプロジェクトを通じて、私たちは次のような知見を改めて確認しています。

  • Starlinkは、人が一斉に集まるスタジアム・イベント会場のような「携帯キャリア網が混みやすい場所」と非常に相性が良いこと
  • 1か所集中ではなく、複数基による分散・冗長構成にすることで、観客数のピークでも安定した通信を維持できること
  • メッシュWi-FiやStarlink Miniを組み合わせれば、屋外広域から局所スポットまで、用途に応じた柔軟な設計が可能であること
  • カゴ台車やポータブルバッテリーといった「現場運用の小さな工夫」が、サービス品質に大きく効いてくること

スポーツの試合、音楽フェス、地域のお祭り、大型展示会 — 「人がたくさん集まる場所で、確実な通信を提供したい」というお悩みは、業種を問わず増えているように感じます。とくに、キャッシュレス決済や入場管理、ライブ配信がイベント運営の前提となった今、通信は「あれば便利」から「なければ運営が止まる」インフラへと立ち位置を変えました。

IIJエンジニアリングでは、スタジアム規模のイベントWi-Fi構築から、Starlink Mini単体での小規模イベント向け回線提供まで、ご要望に応じて柔軟にご支援しています。「自社のイベントにもイベントWi-Fiを導入したい」「Starlinkを活用したスポット回線を試してみたい」 — そんなご相談がございましたら、ぜひ下記の問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。次のスタジアム、次のイベント会場で皆様にお会いできることを、スタッフ全員が楽しみにしております。

詳しくはこちら、マルチアクセスソリューション | 株式会社IIJエンジニアリングサービスサイト

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