ローカル5Gが制度化されてから数年が経ちました。「自営の5G網を企業が持てる」という新しい選択肢として注目を集めましたが、現場で関わっている立場として正直に申し上げると、その特性を本当に活かせる用途はまだ多くない というのが実感です。
そんな中で、私たちIIJエンジニアリングが「これはローカル5Gのためにあるような用途だ」と確信を持って取り組んでいるのが、サーキット/モータースポーツ の現場です。本記事ではその背景と、これまでの取り組みをご紹介します。
ローカル5Gとは:自営の5Gネットワーク
ローカル5Gは、携帯電話事業者ではなく、企業や自治体・大学などが自ら免許を取得して構築・運用する5Gネットワーク です。総務省が制度化したもので、4.7GHz帯や28GHz帯などのローカル5G用周波数を、自分たちのエリアの中で自営網として利用できます。
理論上の用途は幅広く、工場、物流倉庫、スタジアム、キャンパス、建設現場、農地――およそ「Wi-Fiでは届かない/キャリア5Gでは品質が保証できない」場所であれば、ローカル5Gで自分専用の通信品質を確保できる、というのが触れ込みでした。
正直なところ、ハマる用途は意外と少ない
では実際に企業の現場でローカル5Gが広く採用されているかというと、選定の最初の段階で落とされてしまうケースが多い のが現状です。理由はおおむね以下のとおりです。
- 多くの場合、Wi-Fiで足りる:要件を整理すると、Wi-Fi 6/6E/7で十分にカバーできるケースが大半
- 初期コストが高い:基地局、コア、対応端末、免許申請、設計・工事まで含めると、Wi-Fiとは桁が変わる
- 端末の選択肢が限られる:Wi-Fiのような自由度がまだない
- キャリア5G/プライベートLTEで代替可能なケースも多い
つまり、ローカル5Gでなければならない「強い理由」 が要件として明確に立つ場面でないと、コストに見合わないというのが現場感覚です。
「強い理由」が立つ用途:サーキット
その「強い理由」がはっきりと存在する用途として、私たちが手応えを感じているのが サーキット です。
サーキットでのレース開催時、観戦に集まる数万人の来場者によって 携帯キャリア網は局所的に輻輳 しがちです。一方で、レース運営側はレーシングカーのオンボード映像やテレメトリ情報、運営無線、観戦体験向けの中継など、業務上どうしても止められないトラフィック をリアルタイムに伝送する必要があります。
ここで求められるのは、「来場者の混雑から独立した、自分たちでコントロールできる通信リソース」です。これはまさに、ローカル5Gが提供するべき価値そのもの です。
ローカル5Gの議論は「これでWi-Fiを置き換えられるか?」になりがちですが、本当に効くのは「キャリア網が使えない・使うべきではない場面で、自分たちのネットワークを握れる」用途です。サーキットはまさにそこに当てはまります。
もてぎサーキットでのPoC(SUPER FORMULA)
IIJおよびIIJエンジニアリングは、日本レースプロモーション(JRP)と共同で、SUPER FORMULAが開催されるサーキットでローカル5Gを活用する実証実験を実施しました。もてぎサーキットを舞台に、ハイテクインター、M-TEC、日本サーキット、モータースポーツ無線協会の協力のもと、テスト車両からの オンボード映像とテレメトリ情報の低遅延伝送 を検証しています。
- 時速200kmで走行するテスト車両からの低遅延伝送を確認
- 時速150kmでのハンドオーバー時にも途切れない伝送を確認
- サーキット特有の地形・カバレッジ課題への対応ノウハウを獲得
→ プレスリリース:IIJグループとともにSUPER FORMULAでのローカル5G活用に向けた実証実験を実施(SUPER FORMULA公式WEBサイト)
富士スピードウェイでの取り組み:290km/h での実証
もてぎでのPoCで得た知見を踏まえ、2025年9月には 富士スピードウェイ でさらに踏み込んだ実証実験を実施しました。時速290kmで走行するフォーミュラカーから、オンボード映像とテレメトリ情報を、ローカル5Gネットワークを介して低遅延・高品質で伝送することに成功しています。
この一連の取り組みを踏まえ、2025年11月には 「サーキット向けローカル5Gソリューション」 として正式に提供開始しました。サーキットごとのコース・地形特性に応じた電波エリア設計、免許取得の支援・代行、基地局・アンテナの設置工事、車両側通信端末の提供、補完通信(Wi-Fiなど)の提案までを一括で提供しています。
→ プレスリリース:IIJグループ、「サーキット向けローカル5Gソリューション」を提供開始(IIJ)
これからも、ドンピシャの用途を地道に探していきます
ローカル5Gは「あらゆる現場で使える銀の弾丸」ではありません。けれど、サーキットのように 「ローカル5Gでなければ成立しない」用途 は確かに存在します。私たちはこれからも、現場の制約と要件を照らし合わせながら、ローカル5Gが本当に効く領域を地道に広げていきたいと考えています。
EGブログでは今後、サーキット案件でのより具体的な技術解説や、サーキット以外で見えてきている用途、ローカル5Gとキャリア5G/Wi-Fiの使い分けなどもお届けしていく予定です。